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神戸家庭裁判所 昭和31年(家)670号 審判 1957年2月19日

本籍 中華民国広東省 住所 神戸市

申立人 金萍(仮名)

主文

本籍 広島県尾道市○○町○○○○番地筆頭者高石利男の戸籍中、同籍利一、博夫の戸籍のうちその各母欄に「小山利代」とあるをそれぞれ消除することを許可する。

理由

本件申立理由の要旨は、申立人は昭和一九年頃本籍広島県尾道市○○町○○○○番地の高石利男と事実上の婚姻をし、同人との間に昭和二〇年六月○○日に金博英(上記高石利男の戸籍中同籍高石利一と同一人)を、同二一年一二月○○日に金博史(上記高石利男の戸籍中同籍高石博夫と同一人)をそれぞれもうけ、申立人において上記博英、博史につき中国官憲その他に所要の届出を為したものであるが、他方、高石利男において、上記博英、博史につき両名の母の名として虚無人小山利代と記載して庶子出生届書を作成し、その旨の届出を為したため戸籍の記載に錯誤を生ずるに至つたものであるから、主支同旨の戸籍訂正の許可を求めるというのである。

よつて考えるに、本籍広島県尾道市○○町○○○○番地高石利男の戸籍謄本の記載、当庁調査官の調査報告の結果、広島法務局尾道支局長作成の戸籍違反事件通知書又び届出遷延理由書、大阪府総務部地方課長の当庁調査官に対する回答書、高石利男の当庁調査官に対する書簡を綜合すると、申立人の主張事実を認めることができ、この事実からすると上記高石利男の戸籍中、同籍利一、博夫の各母欄記載の「小山利代」は慮無人について為されたものであつて、戸籍の記載に錯誤あること明かであるから、本件申立は理由ありとしてこれを認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

(申立の趣旨)

申立人金萍は事件本人金博英(高石利一)及同金博史(高石博夫)の母親であり、昭和廿年六月頃より本籍広島県沼隅郡○○○○○○番地(尾の道市)高石利男と中華民国上海特別市に於て内縁関係に入り昭和二十年六月○○○日右博英(利一)を生み、又昭和二十一年十二月○○日右博史を生んだが、母親金萍に於て之が中国籍の届出を為して居たところ、父親高石利男に於て右両名の子を小山利代(虚無人)との間に出生したものとして届出であり、之の戸籍記載は錯誤があるので之が抹消又は訂正を求める。

申立の理由

(一) 申立人は中国人の女性で上海特別市○○○○○○番地に居住していた。

(二) 昭和二十年六月頃当時上海駐在日本憲兵であつた本籍広島県沼隅郡○○○○○○番地(尾の通市)高石利男と内縁関係に入り昭和二十年六月○○○日右博英(利一)を出産し、当時金萍は上海に於て中国籍の届出をしていたものである。

(三) 然るところ昭和二十年八月十五日終戦となり昭和二十一年初頃内縁の夫高石利男は母親なる申立人及事件本人博英(利一)をつれ共に日本に帰国したが同年十二月○○日又次男博史を出産したものである。

申立人金萍は来日と共に中国領事館及神戸華僑総会に国籍の届出及出入国関係の在留届出を為したものであるが一方高石利男に於て前記の如き虚無人小山利代との間の子として日本籍の届出を為し居り(初め申立人金萍は之を知らず)結局中国籍及日本籍の二重国籍を持つに至つたものである。

(四) 而して申立人金萍はその後三男を生み中国籍に届出てあるが高石利男とは昭和三十年十一月協議離婚し三人の子を引取り養育して来たが女の細腕で将来とも日本にて教育することは不可能であり近々子供を中国に帰国さす予定のところ出入国管理庁より同長男、次男が日本籍を有するから出入国管理庁関係の在留資格を抹消する旨の通達を受けた、かくては将来中国へ帰国するにつき支障もあり、又元来中国籍の者なので日本籍を抹消する必要に迫られ且又之を希望するので本件日本籍の抹消を求めるものである。仮に之が困難の場合は「小山利代」なる者実存せず、その名の人との子としての届出は錯誤あり、之を訂正され度く、その上で司法大臣に日本国籍離脱の申立をせねばならぬので孰れよりするも本件申立の必要がある次第である。

仍て右趣旨記載の如き審判を御願する。

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